9.重度歯周病に移植とコーヌス義歯で対応
2009年8月初診,59歳男性.全顎的に歯ぐきが痛い,特に右下臼歯が痛くて嚙めないが主訴.左下は12年前に義歯を作り,2年間使用したが,左下5が欠けてからは使ってない.時間がかかってもよいので,できるだけ歯を保存したいとのこと.とても熱心にブラッシングをされる方.
歯周基本治療を行ったのち,右側(右下6,7および右上7)および左上1を抜髄し,自然挺出を期待した.スライドは2010年3月,右下6の抜髄終了時の状態で,すでに挺出を開始していた左上1はかなり挺出してきている.
左右両側ともに小臼歯までの咬合となり,なおかつ右下5が舌側に転位しており,咀嚼できるところが少ない.まず左側大臼歯部の咬合が必要と考え,10年5月に右下5を左下7部へ移植した.
その後,全顎的に歯周外科処置を行った.歯周ポケットが改善できなかった左上6の口蓋根は抜根した.保存できた頰側根は,頰側に位置していたので,咬合できるところまで移動させた.左上1は動揺等が改善できず,抜歯となった.
2012年11月,初診終了時の状態.下顎は,片側処理のコーヌス義歯を2つ装着した.支台歯は歯周病罹患歯であったことと,移植歯を用いていることから,将来の変化に対応できる補綴装置にしたい.また根面の清掃が行いやすいことから,可撤式義歯を装着した.
左上1の欠損はブリッジで対応した.左上1は残念ながら抜歯に至ってしまったが,いきなり抜歯するよりも自然挺出したことで骨の高さが確保でき,審美面においては意義があったと思う.
嚙める歯が増えるにつれて,また咬みしめを自覚するようになったとのこと.元々TCHの自覚があったので,今後くれぐれもTCH,咬み過ぎには注意していただくようにとお話しした.
初診終了,コーヌス義歯装着時.左側は移植を行ったことで遊離端欠損が回避できた.左下5と移植歯の2本のみでも対応できるが,将来の保険として左下4へクラスプを付与した設計.右側も健全歯である右下4はクラスプで対応した.
初診時,初診終了時,初診終了後5年4ヵ月のパノラマ写真の比較.この間,左下4レスト窩,右下6近心の根面にカリエスが生じ,治療している.かなり念入りにお手入れされているが,歯肉退縮に伴う露出根面のカリエスが心配である.歯周ポケットに関しては,右下7舌側中央が7mmに増加している.(担当:千葉奈保子)
その後,2020年9月,咳喘息でトローチを2ヵ月服用したためか,右下6,左下5および7に根面カリエスが生じてしまった.サホライドの塗付およびグラスアイオノマーセメントの充塡で経過観察中であったが,12月,右下6の歯周ポケット増悪に伴う急性発作が生じたため,同部の内冠を除去した.今後は,右下6に根面板を装着し,またリンガルバーを追加し,両側性設計の義歯に改変する予定である.