20.1次固定による連結ブリッジおよびクラスプ義歯の長期経過症例

 1999年3月初診,54歳女性.歯がグラグラする,義歯を装着したいが主訴.歯周基本治療を行いながら,まず保存不可能な上顎左右5を抜去し,上顎残存歯に暫間固定を施した.8月,上顎に暫間義歯を装着した.続いて,右下6の遠心根をヘミセクションし,近心根および左下4を残根状としたうえで,12月,下顎に暫間義歯を装着した.(2000年3月,左下4は予後不良にて抜去した.)

 2000年2月,上顎前歯がフレアアウトしていたため,暫間義歯にゴムのかかるフックを付与し,患者さん自身にゴムの脱着をお願いして,上顎前歯が下顎前歯と咬合するまで継続して貰った.なお,期間は約3週間で済んだ.残存歯を有髄歯のまま保存したかったので,マージンの位置を高くして形成し,4月に連結固定した暫間被覆冠を装着した.その後,最終印象を行い,メタルボンド冠を試適した際,左上3が挻出してしまった.これは被覆冠を撤去する際に脱臼してしまった可能性が高い.6月,残念ながら左上3を抜去し,10月まで抜歯窩の治癒を待った.

 上下顎金属床の設計.母模型を複製し,耐火式模型を製作するが,この際歯科技工士さんに,もう一つ複模型を製作してもらっている.そして鋳造後,メタルを調整する際は,母模型には決して戻さず,複模型上で行って貰っている.口腔内で金属床を試適し,精度等問題がなかったら初めて母模型に戻している.この理由は,クラスプの鉤端等で母模型を傷つけたあと,口腔内に試適し,もしも問題が発覚した場合,また筋形成・最終印象・咬合採得・上顎の場合エクスターナル・フィニッシュラインを記入するために人工歯排列をやり直さねばならず,大変な労力の無駄に繋がるからである.何よりも,来院回数が増すことで,患者さんに迷惑を掛ける.
 なお,最近はさらに補綴装置の精度を高めるために,金属床のフレーム,大連結装置は一塊鋳造するが,支台装置は別に製作し,ロウ着あるいはレジン止めを行うことが多い.(コーヌス義歯を多用するようになって,自分が今迄製作してきた一塊鋳造の金属床の精度に疑問を持つようになったからである.)

 2001年1月,初診終了時の状態.上顎残存歯はメタルボンド冠で連結固定してある.左下の臼歯が欠如しているため,どうしても右側の小臼歯部で咀嚼する可能性が高い.同部の予後が心配である.

 経過であるが,2007年8月のリコール時に,左下3,左上4および右下5(スライドに掲載なし)に根面カリエスが認められた.気管支炎でのど飴をよく舐めていたとのこと.これが原因で,9月に左上4を抜髄した.右下5は,う蝕が深かったからか10年8月にフィステルが生じ,歯髄が失活してしまった.
 話は前後するが,06年1月,元々歯周病が進行していた右下3を抜去した.その後,歯冠部をスーパーボンドで隣在歯に固定していたが,時々外れるので,09年6月に,舌面板で連結固定した.しかし,17年2月,右下4の舌面板がセメントアウトしてしまった.右下3,4間で切断した状態で,20年11月まで何とか保っているが,延長ポンティック付きの右下2の動揺は著しく大きい.
 また話は前後するが,10年11月,食事後義歯を外すときに痛みがあると訴えた右上4がセメントアウトしていた.右上3,4間で切断してみると,う蝕がかなり進行していた.今でこそAIPCを行うが,この時は露髄させてしまった.この歯は咬合支持歯であり,抜髄は何とか避けたく,カルビタールで暫く経過をみたあと,外れたメタルボンド冠の近心のコンタクトを回復し,再合着した.この歯は20年11月現在まで,特に問題が生じていない.抜髄しないで本当に良かった.
 11年12月,左上2にフィステルが生じたため,感染根管治療を行った.
 12年11月,右下8の遠心に根面カリエスが認められた.もう一度,クラウンを再製作しても,遠心の清掃は難しいと判断し,13年2月,金銀パラジウム合金で製作したコーヌス冠を装着した.こちらの方が,内冠が円筒形で清掃しやすいと思われる.

 2017年2月,初診終了後16年の状態.スライド5で述べたマイナーチェンジを時々行ったが,全体としては良好に推移している.特に,メタルボンド冠で連結固定した上顎の残存歯が,まだ十分に機能していることに驚いている.

 初診終了後16年の義歯装着の状態.レストの適合は16年の月日が流れたとは思えないぐらいに良い状態である.特に上顎義歯は,下顎の残存歯と咬合していないのが故に,顎堤の吸収が生じなかったと考えている.(残存歯による加圧要素がないと,顎堤は吸収しにくい.)もちろん,上顎義歯はこれまでに一度もリライニングを行っていない.
 スライド下段に示す,初診終了後約20年の2020年11月の状態であるが,右下2の動揺が大きい以外は,大変良好である.