24.根面アタッチメント辺縁歯肉の開放(3)

 2019年4月初診,84歳男性.主訴は義歯が安定しない.確かに下顎の支台歯は左下1以外歯冠破折しており,全く維持が得られない状態であった.まず初診当日,上顎義歯においては,適切なモンソンカーブになるように修正し,両側性均衡が得られるように調整したうえで,リライニングを行った.また下顎義歯においては,即時重合レジンにて増歯すると同時に,リライニングを行う際に残存歯のアンダーカットを利用して,何とか維持が得られるように細工した.
 20年2月,上下義歯を新製した.なお,右下4および左下3にはOPAアタッチメントを装着した.しかし,5月までに2回,左下3部にて義歯の破折が生じた.言い訳になるが,右下5の歯冠長延長術の術後に,腫れがひかず,疼痛が長く続いたため,左下2,3の歯冠長延長術を躊躇してしまった経緯がある.また,これらの歯は挻出気味のために,余計に左下3部の義歯床レジンの厚みが薄くなってしまったことが破折の原因である.

 患者さんに私の不手際を詫び,左下2,3の歯冠長延長術を行う許しを得た.さらに,支台歯辺縁歯肉の開放を提示させて頂いた.この症例は,デンチャースペースが十分とれないため,上部構造体は歯冠型とし,義歯床とはラグで固定した.

 2020年11月,下顎の義歯を再度新製,装着した.治療のための来院回数が増えてしまい,大変申し訳なく思う.
 上顎の総義歯は吸着が得られるので,大概は安定させることが可能である.これに対し,下顎の総義歯を安定させることは大変難しい.しかしこの症例のように,両側に支台歯が1本ずつでもあれば,義歯の安定は格段に向上する.したがって,条件が悪い歯でも,安易に抜去せず,何とか支台歯として利用するべきである.そして,勿論日々のブラッシングが最も大切であるが,長持ちするような配慮をすることも重要であると考えている.