2.歯の移植(1)

 2009年7月初診、38歳女性。右上および左下の欠損補綴ならびに前歯の隙間が気になるという主訴で来院。上顎前歯は10年前イタリア留学中に製作したとのこと。全体に軽度の歯周病がみられた。特に左下7の遠心に10mmの歯周ポケットあり、この結果左下⑤6⑦のブリッジは難しいと判断した。

 2009年11月、機能していない右上7を抜歯し、左下6部に移植した。右上7が移動したため、近心傾斜している右上6をアップライトし、出来上がったスペースに、やはり非機能歯である右下8を移植した。この際、ドナー歯(大臼歯)が、顎堤(受容側・小臼歯部))より大きかったので、骨片を挿入し血餅の保持に努めた。(今なら、頰側骨の拡大を行うが、当時は手技が未熟であった。)

 2012年2月、初診終了時の状態。特に問題はみられず、うまく治療できたと思っていた。

 ところが、初診終了2年5ヵ月後(2014年7月)の定期健診の時に、右上5(移植歯)の舌側に歯周ポケットが認められた。その原因は根尖病巣あるいは歯根膜による付着が得られなかったことによる歯周病が考えられるが、取り敢えず冠を外し、感染根管治療を行った。しかし1年経過しても、歯周ポケットは回復せず、抜歯せざるを得ない状況に陥った。09年にアップライトしたため、右上6は対合歯と少ししか咬合していなかった。今度は、できれば近心に移動させて、右下6ともっと咬合させたかった。(ちぐはぐな治療を行ってしまった。)移植歯はまったく動揺せず、骨と癒着していたため、最後のご奉公として移植歯を半分にカットし、歯科矯正の固定源として利用した。なお補綴物は、右上5を切削したくなかったので固定性のブリッジとはせず、可撤式のブリッジ(コーヌス義歯)とした。

 各ステージのパノラマX線写真の比較。苦労して移植した右上5(元右下8)を失ったのは大変残念である。抜歯窩でなく、顎堤への移植は難しいと改めて思い知らされた。結果的には、右下8の移植を行わず、最初から可撤式ブリッジを装着すれば良かったことになるが後の祭りである。

 2018年4月、移植歯である左下6(元右上7)の動揺が大きくなった。歯周ポケットは遠心で5mm存在した。このままではさらに動揺が大きくなり、保存が危ぶまれると判断し、左下7と連結固定することにした。(結果的には、最初から連結固定したほうが良かったということなるが。)
 左下7は初診時遠心に10mmの歯周ポケットが存在したが、この時点で4mmと改善しているものの、デンタルX線写真から近心傾斜が著しい。このまま1次固定したのでは清掃性がさらに難しくなることから,今回はコーヌス冠による2次固定を採用した。なお、左下7のマージン部に2次カリエスが生じたことも可撤式にした理由の一つである。さらに、左下5および8にクラスプを付与し、将来、左下6、7を失ってもこの義歯の形のまま移行できるようにした。