13.右下に2本の歯を移植
2004年12月初診,52歳の女性.主訴は,1ヵ月半前に右下を他院で抜歯したが,まだ痛みがあり,またあとの治療をどうしたらよいか悩んでいるとのこと.以前左下6を抜去後,放置したために左下7が近心傾斜していることから,左下8をドナー歯として右下に移植し,左下7をアップライトすれば,全体のバランスがとれることを説明し,同意を得た.また右上8も非機能歯であることから,この歯も一緒に移植することにした.
2005年7月,初診終了時の状態.移植した右下6および7は,今なら連結固定するところであるが,当時は暫間被覆冠にて暫く経過を観察して,特に問題がみられなかったため,それぞれを単独冠とした.左下のブリッジについても,保持力の増大のためには左下5の頰側歯質を削去し,フルクラウンにするべきであろう.しかし,保険給付の範囲内となると,理解していても頰側の削去をためらってしまう.実際,ブリッジが将来外れないように頰側を削去するか,あるいは審美性のために残すかを患者さんに選んでもらうと,後者を選択する人が多い.
初診終了後13年の2018年8月,リコールの時,恐れていたブリッジの片側脱離が認められた.通常片側脱離が生じても,患者さんは気が付かないことが多い.そしてセメントアウトした冠を外してみると,中はう蝕で崩壊していることが多々ある.今回は発見が早かったため,歯髄を失わずに済んだのは,不幸中の幸いである.なお左下の補綴に関しては,セメントアウトの心配がほぼないコーヌス冠を用いた可撤式ブリッジを製作することにした.
右下の移植した歯は,デンタルX線写真から歯根膜空隙の拡大がみられるが,歯周ポケットは3mm以下であった.今後さらに歯の動揺が増すあるいは歯周ポケットが深くなるようなら連結固定するつもりである.それでも連結固定なしに13年保っているのは,この移植歯が偏咀嚼主機能歯となっていないことが大きな要因と思われる.しかし,それなら左側咬みとなるが,このブリッジが13年,セメントアウトせずに保つとは考えにくい.結局咬合力が弱いからという結論になるが,顔貌はブレーキーで決して弱そうにもみえず,最終的には食事の咀嚼の仕方が上手なのか?良く深読み出来ない症例である.