1.歯の移植と歯科矯正

 2005年7月初診、38歳女性。前歯のムシ歯を治したいが主訴。私は、下顎の右下6以外の大臼歯の保存が難しいことが一番気になる。

 主訴の左上1を仮に修復し、一通りの基本治療を行った後の2006年2月、右上8の矮小歯を右上5部に移植した。さらに4月に、対合歯のない右上7を頬舌側に分割し、それぞれを左下に移植するという比較的難易度が高い移植を行った。続いて5月に、歯科矯正するに伴って必要がなくなる、舌側転位している左下2を左下の一番奥に移植した。これで左下は3本移植されたことになる。
 左下の移植歯も固定源に利用し、06年11月に、下顎の歯科矯正に取りかかった。なお上顎は、少し前の8月から歯科矯正を開始している。08年3月、左上4部に、直径3mmの細いインプラントを植立した。ここは暫く人工歯を接着していたが、時々外れるので仕方なくインプラントを用いた経緯がある。両側がバージンツゥースであり、しかも審美領域であることから今でも、補綴設計に悩む所である。


 2008年6月、初診終了時の状態。治療期間が約3年かかってしまったが、治療結果は満足して頂いた。合計4本の移植した歯の予後が心配である。

 初診時および初診終了時のパノラマX線写真の比較。左下の正面観は2016年12月の状態。特に問題は生じていない。

 2017年12月、左下3本の移植歯の内、一番後方歯の歯周ポケットが急に最大9mmの値を示した。デンタルX線写真を撮影したところ歯根破折らしき像が認められた。特に症状がなかったので、18年1月、正月明けに精査したところ,保存は無理であると判断し抜去した。やはり歯根破折していた。手前の移植歯は、歯周ポケットは3mm以下であったが,著しく動揺していた。初診終了から約10年経っているが、ここまで左側の奥で咀嚼しているとは想像できなかった。結果的に判断すれば、移植した3本を連結固定したほうが良かったかもしれない。
 本来は移植歯の一番前方歯のメタルボンド冠を外して、後方歯と連結固定するべきであるが、今回はメタルボンド冠にインレー形成を行い,後方歯と連結固定した。(インレーの近心部にピンを形成し,維持を増強した。)今後経過を観察し,問題があれば再度作り直すつもりである。

 2019年9月、初診終了11年3ヵ月の状態。左下移植歯を連結固定したので、歯間ブラシの徹底をお願いしている。
 左下の一番後方歯を抜歯したため、左側では若干歯根膜による食感の認知が低下したと考えられる。このために、右側で咀嚼する頻度が増すようになると,右上5(移植歯)が単独植立しているだけに,この歯も歯根破折しないか心配している。患者さんには、意識して両側で食事をするように指導している。