17.矯正的挻出にて上顎切歯を保存

 2012年12月初診、60歳の男性。上顎中切歯の保存を希望しての来院であったが,さすがに保存不可能と判断した。その後来院が途絶えたが、13年10月に,上顎両側側切歯も脱落し、何とか治療して欲しいとのことで再来院した。兎に角、抜歯をして欲しくないとの強い希望があったので、保存が難しいと思われる上顎2〜2、右下2および右上7をとりあえず保存してみることにした。もちろん確約はできない旨をお伝えした。なお、左下6は抜歯ということで,ご理解して貰った。

 2013年10月25日に、まず上顎左右側切歯の矯正的挻出を開始し、12月20日に終了した。14年1月22日に歯冠長増大術を行った。ここで、両側側切歯にコアを植立し、暫間被覆冠が外れにくくした。また、両側中切歯にもピッグテールが掛けられるようになったので、2月24日から中切歯の矯正的挻出を開始し、3月17日に終了した。3月29日に両側中切歯の歯冠長増大術を行い,歯肉縁上歯質を確保した。患者さんは,2から2の単独植立を希望された。しかし、両側中切歯の動揺が大きかったので、同部は連結固定することにし、一方両側側切歯の動揺は僅かであったので,単独植立することにした。ただ、前歯は審美優先で,ここで物を食いちぎることはできないし,絶対にしてはいけないと,来院のたびに力説した。

 右下2も同様に矯正的挻出および歯冠長増大術を行い、保存した。
上顎2~2は,2014年6月に両側中切歯にコアおよび暫間被覆冠装着し、1年5ヵ月間経過を観察した後の15年11月にメタルボンド冠を装着し、ここで初診終了とした。なお、この期間中に他部位の治療(15年8月、左下の可撤性ブリッジ装着)も行っていた。

 初診終了1年1ヵ月後の2016年12月の状態。特に問題なく経過していた。左下5のクラスプのレストは敢えて付与していない。

 2017年6月、恐れていた事態が生じた。すなわち、左上2の歯根破折である。上顎前歯で噛み切ってはいけないと口が酸っぱくなるくらい注意してきたが、焼き鳥を食べて万事休すといったところである。上顎中切歯は連結固定してあり,もう一度ブリッジの支台歯にするためにメタルボンド冠を作り直す気にはどうしてもならなかった。
 そこで目に付けたのが,とりあえず保存しておいた右上7の残根である。17年7月、口蓋根を抜歯し、左上2部に移植した。歯根は著しく短いが、移植後の動揺は思っていたより少なかったので、17年12月に硬質レジン前装冠を装着した。
 しかし、悲しいことに18年1月、今度はお握りを食べて脱落してしまった。患者曰わく、お握りの中に肉の塊があり、それがあたり脱落したとのことである。1ヵ月も保たなかった。いくらここで噛んではいけないと申し伝えても、お握りで脱落するような冠を装着した私に責任があり、大いに反省している。

 インプラントも考えたが、もう一回チャレンジさせてくださいと患者さんに頼み、左上3の舌側をエナメル質の範囲内でほんの少し削去し、2018年4月に接着性の延長ブリッジを製作してみた。今度は外れても,また接着すれば済むので特に問題は生じないが、脱落する頻度が度々ではまた失敗と言わざるを得ない。
 20年7月の時点で,接着ブリッジ装着後2年3ヵ月経過したが,19年10月に1回外れただけですんでいるので、まずまずと胸をなで下ろしている。