可撤性ブリッジ

1.症例1

 1996年初診40歳男性。97年に右下のブリッジを作り直した。特に問題なく経過したが、2012年、ブリッジ装着15年で右下5に歯根破折が生じた。ブリッジの支台歯で、失活歯(歯の神経がない)の場合に歯根破折が生じる頻度が高い。この患者さんの場合、右下に4~7のブリッジを装着することも可能であるが、義歯床でも咬合力を負担してもらいたいこと、ブリッジのセメントが外れる心配がないこと、支台歯の清掃が行いやすいこと、将来失活歯である右下7を失ってもマイナーチェンジで義歯を再利用できること等を配慮しコーヌス義歯を選択した。

 上段のパノラマX線写真はブリッジ装着5年後の状態である。この時は、上下咬み合っている歯の数の多い左側で咀嚼している。2005年左側の上下7を歯周病で抜歯しているが、左側咬みが大きな要因の一つと思われる。中段は2012年6月の状態。左側の上下7を抜歯してから、今度は右側で咀嚼する頻度が増し、右下5の歯根破折に繋がったものと思われる。なお、左下のスライドは、2016年8月の状態。特に順調に経過しているが、つぎは、右下7に問題が生じると危惧している。

2.症例2

 2004年初診の55歳女性。2005年に左下にブリッジを装着した。しかし、装着後7年にして、左下7が片側脱離し、セメントアウトしていた。歯冠部の歯質は崩壊しており、有効な歯肉縁上歯質が得られなかった。そこで矯正的挺出を行い、冠の保持にとって必要な歯質を確保した。咬合力も強く、固定性のブリッジにすると再度片側脱離する可能性が高いことから、その心配のない可撤性のブリッジ(コーヌス義歯)を装着した。

3.症例3

 2005年初診の41歳女性。左上のスライドは2007年5月、初診終了時の状態。右上のスライドは9年後の2016年7月の状態。右下のブリッジは他院にて相当昔に作製されたとのこと。2016年の時点で、右下7にマージンからのう蝕がみられたため、今回ブリッジを作製し直すことになった。 もう一度固定性のブリッジにすることは可能である。しかし歯の状態はスライド2にみられるように、歯の中に神経がない失活歯であり、抜髄後の日数が大分経過している。さらに、審美性を求めた自費の補綴物を希望されたが、固定性にしてしまうと、何かトラブルがあった場合、また最初から作り直す羽目になってしまう。そこで、今回は将来の変化にも対応できる可撤性のブリッジ(コーヌス義歯)を作製することにしていただいた。

 2005年10月当院初診時、および2016年12月可撤性ブリッジ作製時のパノラマX線写真。失活歯が多く、今後歯根破折の危険性が増しつつある。

4.症例4

 2008年初診60歳女性。2010年12月に左下ブリッジが脱落したとのことで、2011年3月に新たにブリッジを作製した。なお、旧ブリッジは4年前に他院にて作製したとのこと。咬合力が明らかに強そうであり、またすぐに脱落する可能性が高いことから、可撤性のブリッジ(コーヌス義歯)を勧めたが、患者さんの理解を得ることはできなかった。ブリッジの片側脱離を危惧して、ブリッジを本止めせずに、仮着して経過をみることにした。 スライドにはないが、2012年11月に左下5の片側脱離が生じ、う蝕が進行していた。残念なことに歯の中の神経を除去(抜髄)する羽目になった。 2015年7月、再び左下5の片側脱離が生じた。2011年の時に、左下5の頰側を金属でもっと覆い、仮着にせず本止めすればブリッジの寿命はもっと長くなるはずであるが、保っても数年の違いであると思う。咬合力の強さ、右下7にインプラントがあるが咬み側は左側であること等、この症例にブリッジは適応しないと考えられる。 少なくとも5年前に可撤性ブリッジにしておけば、右下5の抜髄は避けられた。また左下7も失活歯であることから、将来歯根破折が生じる可能性も高い。そこで、左下4、8にクラスプをかけ、水平的な力を少し担ってもらうことにした。また、左下5、7に最悪歯根破折が生じても、マイナーチェンジで対応できるように設計した。(2016年3月)

5.症例5

 2012年、初診時61歳女性。左下6を抜去し、インプラントを入れて欲しいが主訴。しかし、デンタルX線写真から十分保存が可能であることから、自分の歯が何より代えがたいことを説明した。但し、このままでは歯肉縁上歯質がないため、冠の保持を得るために矯正的挺出を行った。なお、遠心の固定源にミニインプラントを用いた。歯根を挙上し終わったところで、歯冠長増大術を行い、歯肉縁上歯質を確保した。左下6が分割されたことおよび左下7が元々欠如していることから、可撤性のブリッジ(コーヌス義歯)を選択した。 この時点で、患者さんの遠方への転居が決まっていたため、将来左下6を失った場合を考慮し、左下4にクラスプを付与した。しかし、審美的にどうしても受け入れられず、鉤端を切断せざるを得なかった。現時点においては、クラスプは転ばぬ先の杖であり、切断しても機能的にはほとんど影響を及ぼさない。将来、左下6を失うことがあった場合は、その時にまたクラスプを足すか、どうしても嫌なら左下4を削去しコーヌス冠を装着してくださいと説明し、ご理解いただいた。 その後4年が経過するが、年2回経過観察にいらしていただいており、順調に推移している。

6.症例6

 1994年初診。59歳女性。主訴は下顎の義歯が合わないということで、同年新規に作製した。95年7月から上顎右上5から左上4のブリッジの再作製に取りかかり、95年12月に完成した。スライド下のパノラマX線写真は、初診時(94年)および98年時の状態。

 2014年1月、上顎ブリッジ作製後18年2ヵ月後の状態。上顎は、一見問題なさそうであるが、パノラマX線写真から右上4、左上5に明らかなう蝕が認められる。また、右上3は、以前う蝕が生じコンポジットレジン修復を行ったが、完全にう蝕を取り除けたか不安である。このまま放置しう蝕がさらに進行してしまうと、これらの歯を失う可能性があることから再作製を勧めた。患者さんから快諾を得られたので、ここで再治療を行うことにした。

 まず、上顎左右3,7を残し、暫間義歯を装着した。ここで少し義歯に対する反応みたのち、犬歯の冠も除去した。全体に歯肉縁下カリエスが認められたため、歯冠長増大術を施し、歯肉縁上歯質を確保した。 ここで、もう一度固定性のブリッジを装着することも可能であるが、暫間義歯を装着し、義歯にも慣れたことから可撤性のブリッジ(コーヌス義歯)を勧めた。審美性は、メタルボンドのブリッジより見劣りするが、外して清掃できることのメリットは著しく大きい。また、将来どこかの歯にトラブルが生じても、義歯全体を作り直す必要はまずない。この時点では歯肉が赤く、炎症がまだ残っているが、今現在(2017年6月)、歯肉は健康になり、患者さん自身も可撤性ブリッジにして本当に良かったとおっしゃっている。

7.症例7

 私が歯科医師になって2年目に治療した患者さん。1981年に右下にブリッジを自分で作製し、装着した。いわゆるロングスパンブリッジである。リコールをせずに暫くお目にかからなかったが、私が開業したのを機に、95年に来院した。(中段パノラマX線写真) 2005年に左下7を歯根破折で失ったが、義歯を入れないまま経過した。スライド下段は2010年の状態。

 2011年、左上4を歯根破折が原因で失い、③4⑤のブリッジを装着した。ここで、左側大臼歯部でも咬んでもらいたいため、2012年左下にコーヌス義歯を装着した。(スライド上段) 2012年の時点で、この患者さんは左側咬みであることが分かった。だからこそ右下のロングスパンブリッジが長くもったといえる。さらに、ブリッジのポンティックを極端に小さくしたことも、左側咬みを助長したと思われる。2013年、右下ブリッジのマージン部にう蝕がみられたのを機に、作り直しに同意していただいた。2014年右下に、可撤性ブリッジ(コーヌス義歯)を装着した。 ポンティックの大きさを普通に作れば、ブリッジの支台歯の歯根破折に繋がるし、反対に小さく作れば左側の歯の歯根破折を助長するしと、バランスがとれた大きさにするのは難しいと痛感した。