歯の移植とコーヌス義歯

 1996年1月初診、32歳男性。左上4の詰め物脱離が主訴。下顎左右欠損部については、義歯の作製を希望せず、小臼歯までの咬合すなわち短縮歯列のまま経過をみることとなった。
 その他、う蝕の治療を数歯行った以外、特に自覚症状がなく18年経過した。このケースでは上顎大臼歯の挺出はみられなかった。しかし、下顎顎堤が頬舌側的に著しく吸収したことが一番の大きな変化である。
 2014年7月、左上4が腫れ、物が噛めないとのことで来院した。歯周ポケットが10mmあり、歯根破折を疑った。なお、小臼歯部での失活歯は左上4および左下5であり、これらの歯が歯根破折する可能性は著しく高い。

 左上4を抜歯したあとブリッジを装着するとなるとバージントゥースである左上3の削去が必要となるが、これを避けるためにはインプラントあるいは歯の移植を行う必要がある。ここで左上7は、対合歯がなく、しかも顎堤が劣型であることから、この歯の存在意味はあまりなく、ドナー歯になり得ると診断した。そこで、この歯の口蓋根を移植する計画を立案した。但し、デンタルX線写真から左上7が単根の可能性もある。分岐を確認するにはCTを撮影すれば一番確実であるが、被爆の問題もある。デンタルX線写真を偏心投影し、まず分岐していると診断したのち、抜髄を行い歯根の離開を確認した。さらに、実際分割を行うことで、確定診断した。なお、口蓋根の矯正的挺出を行い、抜歯を行いやすくした。2014年12月、左上4部に左上7の口蓋根を移植した。頰側根は分割の仕方が良くなかったため抜歯した。
 下顎の義歯の製作を行っている間、仮歯で経過をみた後に、最終補綴物を装着した。若干動揺がみられることと、このエリアが左側の咬合咀嚼の中心となることから、左上5と連結固定した。

 2016年5月、一連の治療が終了したときの状態。今回は短縮歯列にせず、大臼歯部でも噛めるように、下顎に義歯を装着してもらった。

 下顎義歯はコーヌス義歯を選択した。通常ならば両側にまたがるリンガルバーは必要ないが、下顎左右顎堤が著しく劣型であることから、顎堤の受圧条件が悪いと判断し両側設計の義歯を装着した。患者さんは、義歯をいれたことで、以前より食事がとりやすくなったとおっしゃっている。

2017年11月23日掲載